「もう嫌やな、と思ってん」
代官山にあるカフェの一番奥の席で、ジョン.B.チョッパーは、自身がバンドを辞めた理由について話し始めた。店内に流れる軽快な音楽とは対照的に、その口調にはどこか重たいものが感じられた。
「もう松本君と一緒におるのは嫌や。こんな人とおるのはしんどい。……そう思うとどんどんやる気を失くしていってしもた」
ベース・プレイヤーとして、遅い歩みながらも着実に自分なりの自信をつけていったジョンBだったが、結果としてそれは、音楽の奥深さを知らされることになった。クリアしなければいけない地点が、まだずっと先に無数にあることが分かった。そしてその遥か先にはトータス松本がいた。そのトータスはもっと先へと進もうとしていた。
「今さら追いつけるわけがない。俺はなんなんや。キャラクターばっかりが先行してて……。松本君が怖くなった、と同時に、もう辞めるしかないと思った」
この連載の取材で何度かジョンBと話をした。驚かされるのは、彼の持つ本質を見抜く能力だ。そう言えば、トータスがこんな話をしてくれたのを思い出した。それはまだ、バンドを結成して少し経った頃、トータスがオリジナルの楽しさに目覚めて曲を書き始めた頃の話だ。
「ケイヤンってなんでもウェルカムな人やねん。どんな曲書いていっても『ええやん、ええやん』って言ってくれる。でも黒田が……ま、当時の立場はケイヤンとは全然違うけど(笑)……たまーに『それ、いいスね』とかボソッと言いよるんよ。それがめっちゃうれしい。黒田の判断がめっちゃうれしかった。だから、ウルフルズを客に見せる場合に、黒田の客観的なフィルターを通した方がいいというような気がしてて、そういう意味でも黒田は重要な存在やった」
トータス松本との圧倒的な才能の差。バンドを組んだ頃よりそれは明らかなはずだったが、その差が埋まる種類のものではないとジョンBは見抜いてしまった。
「はっきり言って、俺と松本君との音楽的な才能の差なんて、ものすごいと思う。鳴ってる音感とかリズムとか全然違うよ。それでも音楽を一緒にやっていくには、メンタルで同じところにおらな出来へん」
トータス松本という巨大な才能を持つ人物が、バンドをどういった方向に導こうとしているのか、それに応えるにはどういった音を出したらいいのか。想像するだけでも、そのプレッシャーは相当なものだろう。
「だから俺は、1回やる気を失くしてるのよ」
少し間があり、ジョンBが続けた。
「何をしても……こういうこと喋ってても、常に松本君が出てくる。こんな人生嫌やで!アマチュアの頃からずーっと一緒、トラウマの塊ですよ。もうそれが嫌で嫌で、とにかく松本君から逃げたくて逃げたくて。でもそんなん、誰にも言われへん。……トータス松本と一生このまま過ごすのは嫌やって、冷めてもうたんや。1回売れて頂点に行くと松本君の凄さがよう分かった。自分の中には松本君っていうのが常にあって、肝心の自分とはちゃんと向き合えてなかった」
例えば、モーツァルトの才能の凄さを誰よりも理解できるという才能を持ち合わせてしまった不幸な音楽家、アントニオ・サリエリのように、ジョンBの頭の中はトータス松本に侵食されていった。もはや、プレイヤーとしての冷静な判断はあるわけがなく、ただトータスから逃げたいという一心だった。ジョンBの中にジョンBは存在していなかった。傍目には、そんなジョンBは、単純に自分に自信が無い人間に映ったことだろう。そして、プレイヤーとして相変わらず未熟に思われたことだろう。トータス松本を妬んでいるようにさえ見えたことだろう。その通りである。その通りなのだが、一皮めくればなんと壮絶な思いと絶望が渦巻いていることか。
才能を理解できる才能。その能力は返す刀で自分自身を傷つけていく。サリエリの回顧談でモーツァルトを描き話題となった映画『アマデウス』のラストシーンが印象的だ。精神に異常をきたし、収容されていた病院の中でサリエリは言う。自分は、凡庸なる者の神なのだと。そして精神病患者たちが群がる通路を車椅子で押されながら、独り言のように繰り返す。
「凡庸なる人々よ、罪を許そう」


1999年8月1日、ジョン.B. チョッパー脱退が正式に発表された。間接的にではあるが、トータス松本に、この取材でジョンBが語った脱退時の思いを伝えた。そして、改めてジョンB を失った意味を問うてみた。
「だからやっぱり、なんちゅうのかな…… バンドのメンバーってそれぞれがそれぞれの分身やと思うのね。黒田は…… そこの思いが一番強いんかな。俺が曲を書いて歌ってるわけやから、メンバーは俺を自分の分身やと思わなバンドなんかうまくいかへんわけよ。で、肝心なのは、自分を松本に投影する時に、いかに自分を持ったままやれるか、ということやねん。単に自分を抑えて松本に迎合したら、それはバンドやない。ただその個人の弱さを露呈してるだけや。全然違う他人が無理矢理合わさる時のあの変な拒絶感、あれが大事なんやね。おもろい音楽を生むんやね。それを今やれるのが黒田しかおれへんかったりする。それはもう一度松本と向き合うには自分に何が足らんのかということを嫌と言うほど考えたからやろうね。ウルフルズの誰よりもウルフルズのことを考えたからやろうね。だから黒田っていうのは、いいも悪いも俺のこと理解してしまっているのね。そう考えると、黒田があの時辞めざるを得なかったというのは、必要なことやったんやろうね」(トータス)
一方ジョンBには、今現在の気持ちを訊いてみた。
「なんでもそうやと思うけど、自信ある部分とまったく駄目な部分ていうのと両方持ってんと、ちゃんとした“ものづくり”は出来へんと思う。小さい世界におると見失いがちで、常に恐怖感と闘っとかんと進歩ないし。…… なんとなく感じ始めて。こういうのを自覚って言うんやな。そうすると不思議といろいろなことが見えてくる。自分のこともバンドのことも松本君のことも。仲が良いとか悪いとかじゃなくて、大切な気持ちが分かってくる。その部分をクリアしていくと、あんまりイザコザが無くなっていく。まだまだ不満はあるやろうけども、そんなにギクシャクしたものはなくなった。そうなると、楽器の演奏が面白くなってきて自信が出てくる。と同時にアカンところも見えてきて、だんだんハッキリしてくる。そういうことがハッキリしてくると、自分の人生、どういう道を進んでいくかって迷いが無くなる。もし、これでアカンかったら、しゃあない(笑)」
これで、僕の今までのウルフルズは全てです。ジョンBは、そう言って勝手に取材を終わらせてしまった。しかし、脱退の真相に関して、これ以上こちらに訊くことは、もう何も無かった。もし、凡庸なる者の神がいるとして、その神は、とっくにジョン
Bを見放していた。
(2007年10月11日号掲載)

コメント (4)
ジョン·B·チョッパーさんの笑いや服のセンスに注目してます1ファンです。脱退理由の深さを初めて知り、また、涙が止まりませんでした。
ウルフルズ戻ってくれて、本当にありがとう!です。やっぱり4人が揃ってこそのウルフルズですね。
連載これからも楽しみにしてます!是非本にして下さい!
投稿者: タチレンジャー | 2007年11月02日 04:58
日時: 2007年11月02日 04:58
ウルフルズを詳しく知るようになったのは、今年のヤッサからですが、ジョンBさんが、とても印象に残り、トータスさんのように強烈に前に出てくることは無いけど、ものすごく個性が強くて、淡々とそこにたってるたたずまいに、ゆるぎない確固としたキャラクターと奥の深さを感じました。
数年間のブランク。それはブランクではなく必要な時間だったのだろうなと。。ウルフルズの個性はトータスさんが牽引していることは確かですが、そこに確固たるメンバーの個性があいまって、ウルフルズの音が生まれていることを改めて感じました。
投稿者: koro | 2007年11月06日 09:36
日時: 2007年11月06日 09:36
ジョン・B・頑張れ!
フルフルズ頑張れ!
わしも頑張る! それが答えだ!!!
投稿者: 一路 | 2007年11月23日 04:25
日時: 2007年11月23日 04:25
感動してしまった。
次に、ジョン・Bを見る時には、愛のオーラを送りたい。
還暦過ぎても、続けて欲しい。
投稿者: マダム・桃 | 2008年02月15日 15:10
日時: 2008年02月15日 15:10